Zoids Official Fan Book EX
Transcripts (Part 1)
Contents:
Volume 1 | Volume 2 | Volume 3 | Volume 4 | Volume 5
ゾイド オフィシャルファンブック・エクストラ
ZOIDS OFFICIAL FAN BOOK EX Vol.1
ZAC1957年
ヘリック・ムーロア王、中央大陸統一。同年、王に長男ヘリックⅢ世が誕生
ZAC1959年
ヘリック王に次男、ゼネバスが誕生
ZAC1978年
ヘリック王死去。中央大陸はヘリックⅡ世を大統領とする共和国と、ゼネバスを皇帝に戴く帝国に分裂
ZAC1980年
共和国と帝国の間で中央大陸戦争勃発
ZAC2029年
地球の開拓船、グローバリーⅢ号が中央大陸に不時着
ZAC2030年~
地球人の技術導入により、戦争激化
ZAC2051年
ゼネバス帝国滅亡。同年、ゼネバス敗残兵を吸収した暗黒大陸のガイロス帝国が、へリック共和国に宣戦布告
ZAC2056年
巨大彗星飛来。惑星Zi大異変
ZAC2099年
40数年の時を経て、再びガイロス帝国がへリック共和国に宣戦布告
ZAC2102年
故ゼネバス皇帝の遺児プロイツェンが、ガイロス帝国首都で反乱を起こし、ガイロス・へリック両軍の主力部隊とともに自爆。同年、プロイツェンの息子ヴォルフ・ムーロアが中央大陸を制圧。ネオゼネバス帝国を建国
そして、3年の時が流れた――。
RZ-001 OG
GOJULAS THE OGRE 〈ゴジュラス ジ オーガ〉
EZ-060
DARK SPINER 〈ダークスパイナー〉
EZ-036 ST
STEALTH STINGER 〈ステルススティンガー〉
EZ-036 SS
SACK STINGER 〈サックスティンガー〉
■ZAC2105年秋
中央大陸デルポイ
ネオゼネバス帝国皇帝
ヴォルフ・ムーロア
へリック共和国崩壊から3年。中央大陸デルポイは(少なくとも表面上は)、平穏な日々が続いていた。ネオゼネバス帝国が、侵略軍とは思えないほど緩やかな占領政策をとったためだ。
議会の解散。軍の解体。帝国の要求は、基本的にはその2点だけ。共和国国民の恐怖は安堵に変わり、安堵は新たな支配者への抵抗の意志を薄めていった。
ネオゼネバスを率いる皇帝が、ヴォルフ・ムーロアであったことも、帝国の支配をスムーズにした一因だっただろう。英雄王、初代へリック・ムーロアの血族。この事実は、中央大陸に住むすべての者にとって、特別な意味がある。
「ムーロア一族こそ正統な支配者」
共和制確立から100年を経た今でさえ、そう思う民衆は少なくない。
また国民には、暗黒大陸ニクスのガイロス帝国への恐怖もあった。前大戦の傷が癒え次第、彼らが再び中央大陸に牙をむくのは間違いない。異民族であるガイロスの占領政策の苛烈さは、ネオゼネバスの比ではないだろう。そして、共和国軍が崩壊した今、頼れるものはネオゼネバス軍だけなのだ。
ZAC2105年秋。これら、さまざまな要素がネオゼネバス帝国の中央大陸支配体制を、日々強固なものにしつつあった。
中央大陸 デルポイ マップ
ダラス海
シード海
デルダロス海
フロレシオ海
中央山脈
ネオゼネバス帝国首都
ヘリック共和国軍拠点
旧ヘリック共和国首都
■デルポイ中央山脈
へリック共和国軍拠点
共和国軍陸軍少尉
スティブ・ボーン
山頂から駆け下る風が刺すように寒い。定時パトロール中の共和国軍少尉スティブ・ボーンは、大急ぎで愛機ケーニッヒウルフのコクピットに滑りこんだ。
7000メートルから9000メートル級の高山が連なる中央山脈。その中腹だ。冬の訪れは早い。今夜か、明日には雪になるだろう。待ち望んでいた雪。積もれば、少なくとも春までは、ネオゼネバス帝国軍の追求の目をごまかせる。
ここにはヘリック共和国軍の秘密基地があるのだ。3年前、100か所を超えていた軍事拠点のひとつ。だが今、生き残っているのは30か所もないはずだ。帝国軍は寛大な占領政策の一方で、共和国軍残存部隊に対しては徹底的な掃討作戦を行なっていた。これら3年の戦いで、共和国軍はただの一度も勝っていない。発見されたが最後、一方的に叩かれてきたのだ。
ダークスパイナー。あの悪魔のような電子戦ゾイドのせいだ。奴のジャミングウェーブに、味方ゾイドはことごとく機能をくるわされ、戦うことさえできずに敗れさってきたのだ。
だが…。春まで持ちこたえられれば、「あれ」が完成する。共和国軍に残された最後の希望、あの新型巨大ゾイドが…。
■ネオゼネバスよりの刺客
ステルススティンガー来襲
帝国軍陸軍少佐
ジーニアス・デルダロス
定時パトロールを終えたスティブ・ボーンが、愛機を基地へと向けた時だった。いつもは軽やかなケーニッヒの動きが、不意に重くなった。操縦桿と駆動系の間に異物がはさまってるような鈍い感覚。この操縦感には覚えがある。3年前、陥落した共和国首都奪還作戦の時と同じ感覚だ。
あの時も、別のケーニッヒに乗っていた。高速部隊の一員として、敵装甲師団主力の脇腹をつく作戦だったのだ。だが、敵部隊を目の前にして、急にケーニッヒの動きが鈍った。敵部隊に、ダークスパイナーがいたのだ。奴のジャミングエリアに入った途端、ケーニッヒは酔っぱらいみたいに千鳥足になった。
機動力を失った高速ゾイドなど演習用の標的以下だ。後はディロフォースやらディマンティスやらが、嫌というほどわいてきて、めった撃ちにされた。部隊は一瞬で壊滅。ジャミングウェーブで操られた味方に撃たれた仲間も少なからずいた。
「よく、生きのびた」
そう思う。その代わりスティブは、愛機を捨てて脱出という、ゾイド乗りにとって最低の屈辱を味わっている。
苦い思い出だった。だが、感傷にひたっている暇はない。敵が迫っているのだ。
それも、ダークスパイナーを含めた最悪の掃討部隊だ。一刻も早く、基地に報せなければならない。
スティブは愛機の動力を切り、コクピットから飛び降りた。通信機も使えないのだ。頼りは自分の足だけだ。険しい足場を、這うように走る。だが、地上5000メートル。すぐに息があがる。そのスティブの背後から、地響きのような足音が近づいてくる。瞬間的に岩場に身を隠す。すぐ傍を悠然と進撃していく敵部隊。その威容を見つめながら、スティブの絶望感はさらに深くなった。
ダークスパイナーだけじゃない。デススティンガーまでいる。惑星
Zi古代超文明の遺産オーガノイドシステムを搭載した怪物だ。今や帝国軍は、戦闘ゾイドに恐るべき生命力と俊敏性、そして闘争本能を与えるこのシステムを完全に解析、量産に成功している。目の前の奴は、荷電粒子砲を外す代わりにステルス性と装甲を強化した量産機、ステルススティンガーだ。ゾイドコアの培養をはぶいた大量生産タイプの小型機、サックスティンガーもいる。機数は約100。それらすべてが漆黒のカラーリングで統一されている。「黒の
竜騎兵団」だ。
帝国軍最強のゾイド乗りと噂される、ジーニアス・デルダロス率いる戦闘部隊。
スティブの唇に、小さな笑みが浮かんだ。ここまで悪条件が重なると、人はかえって笑ってしまうものらしい。
再び、スティブは這うように走り始めた。戦友たちの待つ基地へ。確実な死が待ちうける戦場へと向かって……。
■ゴジュラス ジオーガ出撃!
スティブの耳を、激しい砲撃音が貫いた。すでに、戦闘が始まっている。
――急げ。
気が、はやった。基地が長くもつとは思えない。遅れたあげく、ひとり生き残るのはごめんだった。
――ギャオオォォォン……
突然、砲撃音に混じってゾイドの咆哮が響き渡った。重々しさと甲高さが重なりあったような、ティラノ型巨大ゾイド独特の咆哮。黒の竜騎兵団にティラノ型ゾイドはいなかったはずだ。では何だ?
小高い岩場を登りきったスティブの視界が、不意に開けた。そこに巨獣がいた。
ゴジュラス ジ
オーガだった。共和国軍のオーガノイド実験機。帝国オーガノイドとは、比較にならないほど完成度は低い。オーガ自身が選んだパイロット以外(それも正規兵ではなく傭兵らしい)誰にも操れないのだ。だが、ノーマルゴジュラスの10倍ともいわれるパワーを持っている。
闘争本能と、その傭兵との精神的リンクだけで動くオーガには、ダークスパイナーのジャミングウェーブは無力だったのだ。
基地を背に、ただ1機帝国部隊に立ちはだかるオーガ。100対1。そんな絶望的な情況が、この狂暴無比な機獣をいっそう奮い立たせていた。
オーガが動いた。風をまいてダークスパイナーに踊りかかる。巨大な顎が、一撃でスパイナーの首を引きちぎった。そのまま2機目のスパイナーに突撃する。同時に、大口径キャノンが別のスパイナーを狙い撃つ。至近距離。ボロ雑巾みたいに吹き飛ぶスパイナー。
いい手だ。オーガは、ダークスパイナーだけに狙いをしぼっている。スパイナーがいなくなれば、基地防衛隊もゾイドが出せる。
スパイナーは全部で7機。すでに3機を倒している。4機目に挑みかかる。
もちろん、オーガの被害も甚大だった。サックスティンガーが次々に飛びつき、集中砲火を浴びせかけてくる。小型ゾイドとは思えない攻撃力。オーガの装甲がひしゃげ、はじけ飛んでいく。だが、それでもオーガに怯みはない。オーガノイド特有の生命力が瞬時に金属細胞を自己修復し、致命傷には至らない。
5機、6機。
あと1機だ。
その瞬間、大地が割れて巨大な尾が出現した。先端に刃。それが、オーガの腹を貫いた。ジーニアス・デルダロス駆るステルススティンガーだった。最後のスパイナーを囮に、オーガが突っこんでくるのを、地の中で息をひそめて待ち構えていたのだ。
オーガの動きが鈍った。ゾイドコアにダメージを受けたのは明らかだった。自己修復できない。
さらに潜りこもうとするステルススティンガーの刃を、両腕で引き剥がそうとするオーガ。だが、パワーが落ちている。止めるのが精一杯だ。
■オーガ決死の防衛戦!
もつれあったまま動けない2機を尻目に、残ったダークスパイナーとサックスティンガーの群れが基地に突入していく。
この時基地に帰還していたスティブは、格納庫にそびえ立つ巨大ゾイドを見上げていた。ティラノを凌ぐ大型肉食恐竜ギガノトサウルスをベースにした新型機ゴジュラスギガを。この反攻作戦の切り札となるべきゾイドを、スティブたち共和国兵は自ら爆破することを命じらていた。ギガは、すでに9割方完成している。だが装甲内に備えるはずのジャミングウェーブ遮断回路が未完成だった。回路がなければ、スパイナーに操られ奪われるだけだ。それだけは避けなければならない。
だが一度も出撃させることなく、自爆させることは、ゾイド乗りとして我慢できない任務だった。愛機を見捨てて逃げ出した、3年前の戦いが脳裏に甦る。
ギリ、と奥歯が鳴った。爆薬を抱えたまま、ギガのコックピットに潜りこむ。敵がこいつを奪おうとした瞬間、起爆スイッチを押すためだ。それで、1機でも2機でも道連れにする。それしかギガにしてやれることが思いつかなかった。
ドンという強い衝撃音が走った。格納庫の隔壁が破られた。敵が飛びこんでくると予測していたスティブは目を疑った。オーガが立っていたからだ。ゾイドコアを完全に貫かれながら、最後のスパイナーの首をねじ切り、仁王立ちしている。
「オーガ…。」
起爆装置を投げ捨て、スティブはギガのエンジンに火を入れた。
■ゴジュラスギガ、立つ!
ゴジュラスギガが起動した。機体固定用のアームをへし折り、ゆっくりと前進する。それを見届けるかのように、オーガが崩れ落ちた。コアに致命傷を負うのを覚悟でステルスステインガーに背を向け、最後のスパイナーを倒してくれたのだ。
コックピットの損傷は少ない。パイロットは生きている可能性がある。それだけが救いだった。
さらに前進する。格納庫の前室。出撃することなく破壊された味方ゾイドたち。動いているのは、すべて敵だ。ギガの前進にあわせて、ジリジリと後退していく。
基地から出た。敵を視認する。まだ、70~80機はいる。正面にステルススティンガー。ジーニアスとスティブでは、ゾイド乗りとしての腕も格も天地ほどのひらきがある。それでも、自分でも不思議なほど、スティブには恐れはなかった。ゴジュラスは、パイロットの闘志と怒りを力に替えるゾイドなのだ。ならば、今の自分が負けるはずがない。
――シャァァァ…
サックスティンガーの一群が、爪を振りかざして飛びかかってくる。
――迎撃だ。尾で…
ギガの長大な尾がブンとしなった。同時に尾に内蔵されたロケットブースターが自動点火する。圧倒的な速さで重金属の塊が飛ぶ。その一振りで、サックスティンガーは文字通り塵と化した。オーガノイドの自己修復能力もクソもない。完全な破壊だ。
■死闘!!ゴジュラスギガ
VS.ステルススティンガー
左右から機銃の雨。チタニウム合金の重装甲には傷ひとつつかない。逆方向に尾を振る。それでまた、サックスティンガーが5、6機まとめて消し飛んだ。操縦しているスティブ自身、震えがくるような破壊力だった。
ザッと、サックスティンガーが退った。敵は動揺している。勝機は今だった。追撃に移るギガ。その鼻先に、群れを割ってステルススティンガーが飛びこんできた。オーガを倒した、尾のレーザーシザースだ。
ギガがかわす。紙一重だ。肩の装甲がザックリもっていかれる。
ギガの牙が閃く。外れた。スティンガーは、すでに背後に回っている。速い。ギガが尾を叩きつける。また外れた。地中に潜られた。なんという動きなのか。
地に潜った時には、ジーニアスは勝利を確信していた。たったこれだけのやり取りで、ギガの動きを見切っていたのだ。このままギガが、必殺の間合いまで近づいてくるのを待ってレーザーシザースを叩きこむ。それで終わりだ。
1分。2分。じりじりする時間の中、冷静に地上レーダーを見つめるジーニアス。
――きた!
スティンガーの尾が地表に突き出た。ジーニアスには、ギガのコアを深々と突き破った光景が見えていた。だが。必殺のはずの尾は、虚しく空を切っていた。
「!?」
初めて、ジーニアスが動揺した。彼の予想をはるかに上回る速さで、ギガが動いたのだ。ありえないことだった。巨大ゾイドの動きではなかった。
追撃モード。ギガは高速戦闘形態に変わることで、中型ゾイド並みの機動力と運動性を発揮する。これこそ、ギガ最大の秘密であった。
ギガの足が、スティンガーを襲った。今度は避けられない。超重装甲が、やすやすと踏み抜かれていく。
「ちっ」
コクピットから転がり出るジーニアス。同時に、サックスティンガーが一斉にスモークディスチャージャーを射出した。立ち上る猛烈な煙幕。そしてそれが晴れた時、黒の竜騎兵団の姿は完全に消えていた。鮮やかな引き際であった。
x x x
サックスティンガーの背に揺られながら、ジーニアス・デルダロスは笑っていた。ゾイド乗りとして初めての敗北。命をかけて倒すべき強敵のと邂逅。それが、たまらない喜びであるかのような笑みだった。その頬を、ひとひらの雪がかすめた。中央山脈に今、冬が訪れたのだ。
x x x
共和国軍基地が負った深い傷を、雪が次第におおい隠していく。
喧騒の格納庫。スティブ・ボーンは、降りたばかりのギガを見上げていた。とりあえず今日の危機は乗り切った。だが、共和国の「明日」は、春までにギガを量産できるかどうかにかかっている。
急がなくてはならない。スティブは、整備兵の怒号の渦へと足を踏み出した。
RZ-064 GOJULAS GIGA
ゴジュラスギガ
機体説明
ゴジュラスギガ。希少種で巨大なギガノトサウルス野生体をベースに、共和国開発部が旧大戦の時代から続けてきた研究の結果が反映され、俊敏かつ強靭に進化した戦闘機械獣である。基本能力の高さに加え、格闘モードから追撃モードに切り替えることで、巨大ゾイドの常識を超えた機動性を獲得。その超絶的な格闘能力を、最大限に発揮する。また古代チタニウム合金製の重装甲は、ダークスパイナーのジャミングウェーブを完全に遮断。さらには命と引き替えに一度だけ撃てる最終兵器「32門ゾイド
核砲」は、デスザウラーの大口径荷電粒子砲すらはるかに上回る威力をもつ。まさに、共和国反攻作戦の切り札と呼ぶにふさわしい機体なのである。
|
Weight |
Depth |
Hight |
Max Speed |
格闘モード時 |
200t |
29.5m |
17m |
95km/h |
追撃モード時 |
200t |
34.9m |
14.4m |
180km/h |
ハイパープレスマニュピレーター×2
ギガクラッシャーファング
ハイパーEシールドジェネレーター
封印武装32門ゾイド核砲
クラッシャーテイル用脚部補助アンカー×2
ロケットブースター加速式クラッシャーテイル
テイルスタビライザー×2
〈格闘モード〉
前面 側面
〈追撃モード〉
前面 側面
情況にあわせて、格闘モードから追撃モードに瞬時に変形。中型ゾイド級のスピードと運動性を手に入れたゴジュラスギガは、従来の巨大ゾイドの弱点を克服した。
〈追加兵装プラン〉
大型武器装着用マウントラック
背中に追加武装用のラックをもつギガ。現在、ゴジュラスキャノンの威力と装填弾数を向上した五式野戦砲をはじめ、さまざまな武装案が検討されている。
●企画・編集・執筆
窪内 裕
●写真
森 文孝
●CG合成
渋谷 勇次(渋谷電子工房)
●モデル制作
電撃HOBBYマガジン
柳沢 仁(アーミック)
●イラスト
金川 恵治 田川 秀樹
●デザイン
下村 勝 下迫美絵(T.D.N.)
●制作・監修
TOMY ZOIDS TEAM
©1983-2002 TOMY
ゾイド オフィシャルファンブック・エクストラ
ZOIDS OFFICIAL FAN BOOK EX Vol.2
〈ゾイドバトルストーリー〉
■ZAC2106年初頭、中央大陸アルダンヌ
中央大陸 デルポイ マップ
ダラス海
シード海
デルダロス海
フロレシオ海
中央山脈
ネオゼネバス帝国首都
ヘリック共和国軍拠点
旧ヘリック共和国首都
アルダンヌ
帝国軍陸軍曹長
キャプリ・コンラッド
ディメトロドンを駆る、ネオゼネバス帝国軍曹長キャプリ・コンラッド。その背に、死神が迫っていた。
――あとどのくらい逃げられる? 5分か、10分か?
多分、一生分の幸運の残りを、全部かき集めて30分といったところだろう。特別、悲観主義でもないキャプリだが、どうしても“助かる”というイメージがわいてこない。それほど情況は絶望的だった。
死神の名は、ライガーゼロ。精鋭ぞろいのヘリック共和国軍高速戦闘隊の中でも、とびきりの強敵。そいつと、サシで戦わなければならない。それも、ディメトロドンでだ。キャプリの愛機は、お世辞にも直接戦闘に向いたゾイドとは言えない。電子戦ゾイド――。戦闘部隊を影から支え、時には指揮して味方を勝利に導くゾイドなのだ。
キャプリは、試しにシミュレートしてみた。ディメトロドン対ライガーゼロ。コンピュータがはじき出した勝率は、7パーセント。あくまで、お互いの戦闘力を単純比較した数字だ。実戦ではその半分もないだろう。それも、パイロットの腕が対等だと仮定してだ。
――対等? そんなわけがない。
ゼロのパイロットは、並みじゃない。それは、キャプリ自身が一番分かっていた。共和国軍拠点を探して、アルダンヌの森を強行偵察中だったキャプリの小隊を、ゼロはただ1機で、それもわずか10分足らずで壊滅させている。レーダーにもレーザーサーチャーにも引っかららないよう静かに身を潜め、動力を停止させた状態から緊急始動し、小隊を奇襲したのだ。もちろん、ゼロの出力は上がっていなかったはずだ。そんな不安定な機体で、量産型ジェノザウラーを含む10機余りの帝国軍ゾイドを葬ったパイロット。それがキャプリの敵なのだ。
確かにこの3年間、正面きった会戦では、帝国軍は一度も負けてない。だが、それでもいまだに共和国軍を殲滅できない訳が、キャプリには分かった気がした。共和国軍は、まだ死んではいない。こういう真のエースパイロット、真のゾイド乗りが敵にいる限りは…。
背後にゼロの影を感じた気がして、キャプリは3度目のチャフを放出した。レーダー撹乱用のアルミ片だ。銀色の雨にまぎれて、ディメトロドンは静かに後退を続ける。このチャフと、アルダンヌの深い森、そして真冬の早い夕暮れがキャプリをここまで生き延びさせた。だが味方の前線まで、まだたっぷり30キロはある。あと1度の放出で、チャフも切れるだろう。ゼロの追跡が続いているならば、まず逃げ切れない。
助かる方法はある。機体を捨て、徒歩で逃げるのだ。だが、共和国軍が新型ゴジュラスの量産に着手した今、敵拠点の捜索が急務の帝国軍にとってディメトロドンは最も重要な索敵ゾイドだ。キャプリにとっては、叩き上げの彼が初めて手にした大型ゾイドでもあった。捨てられない。
ならば、戦うしかない。たとえ7パーセントでも、その半分でも、勝機があるのなら戦い、生きて還る。
「やるぜ、相棒」
2度3度とコントロールパネルを撫でてから、キャプリは機体を反転させた。そして最後のチャフを最大仰角で放出した後、針葉樹の中ですべての動力をカットした。
――さっきの奇襲。ありゃ見事だった。そいつを、そっくりそのまま返してやる。
それがキャプリの思惑だった。空高く巻き上げたチャフに引き寄せられて、ゼロは必ずここに来る。高速ゾイドの運動性をもってしてもかわせない至近距離に近づくまで息をひそめ、緊急始動からの奇襲。その一撃にすべてをかけるのだ。
キャプリは、祈るような気持ちで日没を待っていた。この無謀な奇襲を成功させるには、ほとんど鼻っ面までゼロを引きつける必要がある。闇が、唯一の希望なのだ。だが、時間はゆるゆると過ぎていく。1分が、永遠にも思えてくる。ふとキャプリの脳裏に「ゼロはあきらめたのでは」という思いがよぎる。そして、すぐに「いや」と思い直す。帝国にとって貴重な最新鋭電子戦ゾイド。それは共和国にとっては、大きな脅威を意味する。見逃してくれるわけがない。
やがて日は落ち、その残照さえも消え去ろうとした時、不意にキャプリの肌が粟立った。ゼロだ。ゼロがきた。目視できたわけではない。索敵屋のカンだ。右前方。距離はざっと400メートル。距離300で目視。さらに近づいてくる。ゆっくりした動き。
「獣王ともあろうものが、えらく慎重じゃねえか、ええ」
さっきのチャフが露骨すぎたかも知れない。ゼロは、罠の気配を感じ取っている。
距離200。150…100。木々にまぎれているとはいえ、もういつ見つかってもおかしくない。わっと叫んで飛び出したい気持ちを、ぐっと飲み込む。80…50。ゼロなら、ひと跳びでつめられる距離だ。距離30。幸運はキャプリに味方した。
「いけっ!」
ディメトロドンが始動した。咆哮が、静寂のアルダンヌを切り裂く。振り向くゼロが、スローモーションみたいに見える。ディメトロドンが牙を剥いて飛びかかる。狙いは喉元。こっちもスローモーションみたいだ。
――ガチッ! 牙が食い込んだ。パワー全開。それでも装甲を破れない。ディメトロドンには、ゼロの牙のようなレーザー装備がないのだ。出力もまだ上がっていない。
――グンと、ゼロが首を持ち上げた。格闘戦用ゾイドの恐るべきパワー。自分より倍も重いディメトロドンを、右に左に振り回す。不規則で強烈な遠心力に、キャプリの首が悲鳴をあげる。だが、振りほどかれたらそれで終わりだ。
トリガーを引き絞る。リニアレーザーガンが、ミサイルポッドが、濃硫酸砲が火を吹く。連射。対小型ゾイド用の武装だが、零距離射撃だ。効くはずだ。
――ガン。ゼロの首の装甲板が弾け飛んだ。それでもトリガーは緩めない。エネルギー弾の雨が、ゼロのボディに叩き込まれていく。
――勝った。キャプリがそう確信した時、信じられないことが起きた。ゼロが跳んだのだ。ディメトロドンに食いつかれたまま、垂直に20メートルも。そして体を投げ出すように、自ら大地に激突した。
強い衝撃。キャプリの意識が一瞬飛ぶ。
「やってくれるぜ……」
朦朧としたまま、機体の立て直しをはかる。が、動けない。ゼロが、のしかかっていた。必死でもがくが、身動きがとれない。絶望的なまでのパワー差だった。
「気にいらねえ」
キャプリが小さくつぶやいた。すでにゼロの勝利は決定的だ。牙を立てようが爪をふるおうが、思いのままだ。なのに、ディメトロドンの抵抗を楽しむように、とどめを刺しにこない。よほど、さっきの奇襲が頭にきたらしい。
「その余裕、戦場じゃ命取りだぜ…」
一面に、無数のチャフが舞っていた。さっきの激突の後、2機が地表を転がったせいだろう。このチャフが天啓となった。今、ディメトロドンが全天候3Dレーダー波を放ったら? 電磁波の乱反射。あたりは電子レンジの中と化す。たとえゾイドに被害はなくとも、パイロットは無事ではすまない。
もちろん、キャプリ自身も…。
「おまえは生きて還れよ。ええ、相棒」
また軽くパネルを撫でた。そしてキャプリは、ゆっくりとレーダーを起動した。
x x x
数日後、キャプリのディメトロドンは帝国軍の手で回収される。このディメトロドンは、別のパイロットの手によって、春までに2か所の共和国軍拠点を発見。帝国軍に多大な戦果をもたらした――。
EZ-065 DIMETRODON
ディメトロドン
機体説明
50年以上前に繰り広げられた旧中央大陸戦争時代、最強の電子戦兵器と呼ばれた帝国軍ゾイド、ディメトロドン。ZAC2106年現在、中央大陸各地に潜むヘリック共和国残存部隊を発見するため、最新鋭の電子装備を搭載し、再び実戦投入された。主な任務は、背ビレ状の全天候3Dレーダーアンテナで、いち早く敵をキャッチし、味方部隊に報せること。同時に敵の発信した電波を自動的に分析し、電波妨害も行なう。武装、格闘能力が貧弱で、同クラスの敵との直接戦闘には大きな危険がともなうディメトロドンだが、大局的に見れば、味方を大勝利に導く影の主役ゾイドなのである。
Weight |
Depth |
Hight |
Max Speed |
156t |
22.3m |
12.6m |
150km/h |
全天候3Dレーダー
地対地ミサイルポッド
赤外線レーザーサーチャー
TEZ 20mmリニアレーザーガン×2
チャフ・フレアディスペンサー×2
AEZ 20mmリニアレーザーガン×2
高圧濃硫酸噴射砲
複合センサーユニット
〈3面〉
【前面】 【側面】 【上面】
〈追加兵装プラン〉
ロングレンジライフル
ディメトロドンは電子装備の重さと、改造前の野生体が好戦的でないことから、旧大戦では直接戦闘には向かない機体であると思われてきた。だが、西方大陸戦争で長距離砲を備えた共和国軍の電子戦ゾイド、ゴルドスが精密射撃で戦果をあげたことから、現在ディメトロドンにも砲撃戦仕様機が検討され始めている。
●企画・編集・執筆
窪内 裕
●写真
森 文孝
●CG合成
渋谷 勇次(渋谷電子工房)
●イラスト
田川 秀樹
●デザイン
下村 勝 下迫 美絵(T.D.N.)
●制作・監修
TOMY ZOIDS TEAM
©1983-2002 TOMY
ゾイド オフィシャルファンブック・エクストラ
ZOIDS OFFICIAL FAN BOOK EX Vol.3
〈ゾイドバトルストーリー〉
■ZAC2106年厳冬期、中央大陸ライカン峡谷
中央大陸 デルポイ マップ
ダラス海
シード海
デルダロス海
フロレシオ海
中央山脈
ネオゼネバス帝国首都
ヘリック共和国軍拠点
旧ヘリック共和国首都
ライカン峡谷
共和国陸軍少佐
ウィナー・キッド
共和国陸軍伍長
バディター・ロウエン
神々の神殿のようにそびえ立つ中央山脈。ライカン峡谷は、この山脈に隔てられた中央大陸デルポイの東と西を結ぶ、数少ない通行路のひとつだ。かつて大陸東部をヘリック共和国が、西部をゼネバス帝国が支配していた頃、ここは常に最前線だった。ネオゼネバス帝国が大陸のほぼ全域を制した今も、東西の交通の要所として、その重要度は変わることはない。
厳冬のZAC2106年2月。氷の結晶でおおわれた谷が、昇ったばかりの朝日を浴びて、幻想的にきらめいている。そんな景観も、俺には何の慰めにもならなかった。何度目かのため息が出る。
「帰ったら、軍法会議ものだぜ…」
砲撃装備をほどこした愛機ライガーゼロ・パンツァーのコクピットから、隣に並ぶもっそりとしたゾイドに目をやる。RZ-066ゴルヘックス。ゴルドスに代わる、共和国軍の新鋭電子戦ゾイド。俺を巻き込んだ当の本人は、あの中でふてぶてしく洟でもすすっているに違いない。いつものように…。
俺の名はウィナー・キッド。共和国軍
閃光師団のパイロット。一応、階級は少佐ってことになっている。で、ゴルヘックスのパイロットが共和国陸軍伍長バディター・ロウエン。俺の幼なじみだ。二等兵を体験したいという、それだけの理由で卒業間近の士官学校を飛び出し、軍に入った変わり者。だから俺たちの間には、天地ほどの階級の開きがある。だが白状すると、俺はこの幼なじみには昔から頭が上がらない。何をやらせても、バディターはトップ以外の成績を取ったことがないのだ。天才のデパートみたいな奴。今は重砲隊でガンブラスターに乗っているが、ここでもエース。「射程内の敵に弾が当たらない方が不思議」。それがバディターの口癖だ。欠点は、子供並みの腕力しかないこと。あと、一般常識が通じないってことか。だから俺は、司令部の許可のない2人だけのこの奇襲をもちかけられた時も(非常識さという意味では)それほど驚きはしなかった。バディターの言い分はこうだ。
「共和国軍にとって最大の脅威はダークスパイナー。あのジャミング攻撃をなんとかしなければ勝ち目はない。止める方法は2つ。ジャミング
波を防ぐか、消すかだ。防ぐには、重要な回路と配線を絶縁体でコーティングすればいい。帝国軍ゾイドや共和国軍の最新鋭ゾイド、ゴジュラスギガにはこの方法がとられている。だが、手間とコストは莫大だ。中型・小型ゾイドに標準装備するのは、今の共和国軍には不可能と言っていい。ならば、消すしかない。ジャミング波は電波だ。そこに位相を変えた同じ周波数の電波をぶつけてやれば、互いに打ち消しあい、電波は無効化する」
「スピードもパンチ力も同じ奴が殴りあえば、相討ちになる…ってことか?」
理数系に弱い俺のコメントを無視して、バディターの言い分は続いた。
「それができるのはゴルヘックスだけだ。だから司令部と技術部に進言した。戦闘ゾイドの生産を止めて、ゴルヘックスの量産を優先しろとね。だが、拒否された」
当たり前だ。砲撃屋の伍長が生産体制の進言? 司令部もたまげたろうぜ。
「机上の空論だそうだ。ダークスパイナーの周波数域は広い。出力が桁違いなんだ。次々に周波数を変えられたら、防御側は対応しきれない。それが技術部の結論だ。でもゴルヘックスならやれる。あいつのクリスタルレーダーの反応速度と解析力なら、こっちの機能がくるわされる前にカウンターを当てられる。ボクが試作した増幅用のブースターさえ付ければね」
相変わらずの自信家ぶり。「で、どうするつもりだ?」と俺。
「空論だと言うなら、実戦で証明する。ボクとキミで、ダークスパイナーと戦う。ライカン峡谷の定期便(帝国軍補給部隊)に奇襲をかけるのさ」
そんなわけで俺は、バディターと機首を並べてライカン峡谷を見下ろしている。峡谷への襲撃は、司令部から堅く禁じているのにだ。共和国軍の度重なる奇襲に業を煮やした帝国軍が、補給部隊の護衛にダークスパイナーを付け始めたからだ。最近では、ディメトロドンまでいるらしい。先に発見されたら、袋叩きにあうのはこっちの方だ。
「軍法会議より、命の心配が先だな」
割りのあわない命令違反。それでも付き合ったのは、俺もバディターと同じ意見だったからだ。ダークスパイナーを止めない限り、共和国軍に勝ちはない。
「ボクのブースターを付けたゴルヘックスだよ。先に見つけるのはこっちさ」
あきれるほど自信たっぷりのバディター。その声が、不意に緊張した。
「きた! 右30度、仰角3度上げで主砲発射!」
何重にもうねった谷の、あの向こう? なんでそこまで正確に位置が分かる?
「遅いよ! 左コンマ2度修正、仰角コンマ1度下げ!」
半信半疑で伍長殿の言うとおりにトリガーを絞る。轟音。愛機の主砲が火を吹く。数秒後、谷の向こう側に火柱が上がった。命中。それも直撃だろう。
「次! 左コンマ5度修正、仰角コンマ2度下げ!」
また当たった。3機目も、4機目も直撃。俺は舌を巻いた。ゴルヘックスよりバディターを量産した方がいい。できるもんなら。
5機目を潰したところで、敵が谷の死角から踊り出た。補給部隊の護衛ゾイド。残りは5機。ダークスパイナーも1機いる。
「こっからは射撃を誘導する余裕はないよ。ジャミング波にカウンターを当てるので精一杯だからね。ダークスパイナー以外は、きっちり潰してよ」
伍長殿の操り人形だった俺に、やっと見せ場がきた。任せとけ。きっちりダークスパイナーと対マン張らせてやる。好きなだけ実戦データを取りやがれ。
主砲の連射。ムダ弾なしとはいかなかったが、ダークスパイナーに白兵戦の距離まで詰められた時には、奴の味方を一掃していた。面目躍如。だが、肝心なのはここからだ。この至近距離で、ジャミング波を防げなければ実験成功とは言えない。
ダークスパイナーが、風をまいて突撃してくる。格闘能力もジェノザウラー並みという強敵。重いパンツァー装備では対抗できない。俺は、リスクは覚悟で装備を捨て、素体で迎え討つつもりだった。だが突然、パンツァーがよろめいた。装備も外せない。操縦桿を力まかせに引くが反応なし。ダークスパイナーの強烈な体当たりに吹き飛ばされながらゴルヘックスを振り返る。バディター自慢のブースターから、煙が上がっていた。オーバーヒート? 冗談だろ? こんな時に。
それからたっぷり2分間、俺とパンツァーは念入りにいたぶられた。叩かれ、踏まれ、噛まれた。ブ厚いパンツァーの装甲がなかったら、とっくに死んでる。だが、まだ死ねない。バディターの逃げる時間を稼ぐまで。奴さえ無事なら不完全なブースターも必ず完成する。
そんな健気なことを俺が考えていたのに、だ。バティターがまた意表をついた。ゴルヘックスで、俺と敵の間に割り込んできたのだ。バカか? 戦闘能力のほとんどない電子戦ゾイドで何をする気だ。昔から、ケンカ沙汰は俺の役目のはずだろう?
ダークスパイナーの爪が、ゴルヘックスのコクピットをつかみ、ゆっくりと力をこめた。砕けていくキャノピー。
「バディター!」
俺は絶叫していた。だが、その声は耳をつんざく爆発音にかき消された。ゴルヘックスが自爆したのだ。半端じゃない火薬量。最初から機体に仕込んでいたとしか思えない。ダークスパイナーは大破。奴より2倍厚い装甲のおかげで、パンツァーは辛うじて動けるようだ。だが、ゴルヘックスは姿さえ留めていない。俺は残骸の中に飛び込み、必死で瓦礫の山を崩した。恥ずかしいが泣いていた。その俺の背に、とぼけた声が飛んだ。
「何してんのさ、ウィナー」
バディターだった。右手にゾイドの遠隔操縦器を持っている。
「知ってる、ウィナー? ゾイドも与えられない二等兵は、貧弱な武器と、用心深さだけで生き延びるんだよ」
そう言って洟をすすり、わびるように残骸をなでた。左手には、さっきの戦闘データを収めたディスク。やっぱり俺は、この幼なじみには一生頭が上がらないらしい。だが、不思議と気分は悪くない。そう。軍法会議さえ恐くない気がするくらいに。
RZ-066 GORHECKS
ゴルヘックス
機体説明
ゴルヘックスは、旧中央大陸戦争時、最新式の電子システムを搭載し、共和国軍最高の電子戦ゾイドと呼ばれた機体である。当時、最先端の技術であったクリスタルレーダーは、高性能コンピュータとの連動で、あらゆる周波数帯域の電波を素早くサーチ。電波妨害や索敵任務において、大型電子戦ゾイド、ゴルドスをはるかに上回る戦果をあげた。
惑星Zi大異変後、クリスタルレーダーの製造技術は一時的に失われていたが、共和国開発部の研究により復活。ZAC2106年現在、ネオゼネバス帝国に対する反攻作戦に備え、急ピッチで生産と配備が進みつつある。
Weight |
Depth |
Hight |
Max Speed |
58.5t |
14.8m |
7.2m |
120km/h |
クリスタルレーダーフィン×12
AZ250mm2連装ビーム砲
地対地2連装ミサイルポッド
AZ2連装ミサイルランチャー×2
全天候3Dレーダーアンテナ×4
〈3面〉
【前面】 【側面】 【上面】
〈追加兵装プラン〉
レーダーレンジブースター
ダークスパイナーのジャミングウェーブに対抗するため考案されたブースター。電子装備の出力を上げ、同時にクリスタルの振動を増幅し、レーダーの感度を強化する。
●企画・編集・執筆
窪内 裕
●写真
森 文孝
●CG合成
渋谷 勇次(渋谷電子工房)
●イラスト
田川 秀樹
●デザイン
下村 勝 大里 睦 (T.D.N.)
●制作・監修
TOMY ZOIDS TEAM
©1983-2002 TOMY
ゾイド オフィシャルファンブック・エクストラ
ZOIDS OFFICIAL FAN BOOK EX Vol.4
〈ゾイドバトルストーリー〉
■ZAC2106年早春、中央大陸クック要塞攻略戦
中央大陸 デルポイ マップ
ダラス海
シード海
デルダロス海
フロレシオ海
中央山脈
ネオゼネバス帝国首都
ヘリック共和国軍拠点
旧ヘリック共和国首都
クック要塞
ヘリック共和国軍主力部隊
ネオゼネバス帝国軍
ガイロス帝国軍輸送艦隊
共和国陸軍大尉
デュー・エルド
雪どけまだ遠い早春の中央山脈。その東の麓に位置するネオゼネバス帝国軍前線基地クック要塞に、無数の砲撃音が轟いた。へリック共和国軍の反攻作戦が開始されたのだ。帝国軍の予想より、ひと月以上も早い反攻。奇襲であった。
ZAC2106年現在、帝国軍と共和国軍の総戦力比は20:1。雪どけを待って四方から拠点に攻め込まれたら、万にひとつも共和国の勝ちはない。だが、今なら敵の包囲の一角を崩せるかもしれない。その可能性にかけた反攻だった。
目標のクック要塞は、四方を大河と山脈に守られた鉄壁の砦だ。厳しい戦いになるだろうが、奪い取れれば共和国にとってこれ以上ない拠点となる。
命運をかけた戦い。共和国軍司令部は、ネオゼネバスの包囲網をかく乱するために、できる限りの手を打った。航空師団による複数の敵拠点の同時爆撃。高速ゾイド部隊による各地でのゲリラ戦。同盟関係にあるガイロス帝国軍も動かした。中央大陸に空の輸送艦隊を派遣させたのだ。輸送艦が空なのは、暗黒大陸戦争で深い傷を負った彼らには、まだ戦う力がなかったからだ。だが、この陽動作戦の効果は絶大だった。雪と氷の山脈を駆け下った共和国軍主力部隊は、混乱しきったネオゼネバスの最前線を引き裂き、わずか3日でクック要塞に突入したのだ。
ゴジュラスギガがジェノザウラーを踏み潰し、ゴルヘックスがダークスパイナーのジャミング
波を遮断する。ガンブラスターの20連砲が火を吹き、ディバイソンが敵陣を切り裂いていく。3年にわたる屈辱の日々を晴らすべく、勇猛に進む共和国兵士たち。その中に、アロザウラーを駆るデュー・エルドの姿もあった。
主力部隊のエースと呼ばれる男。だが彼はこの戦いで、まだ1機の敵さえ墜としていなかった。もちろん、手を抜いているわけじゃない。混乱から立ち直った帝国軍が、嫌というほど押し寄せてくる前に要塞を落とし、守りを固めなければならない。正念場はここからなのだ。だがそう思って焦るほど、アロザウラーは彼の意志どおりに動いてくれなかった。理由は分かっている。デューに問題があるのだ。
西方大陸戦争開戦以来、デューはゴジュラスに乗り続けてきたパイロットだ。気性が荒く自らの意志でパイロットを選ぶゴジュラスを乗りこなす者は、英雄と呼ばれる。3年前、彼は共和国首都攻防戦で英雄の名に恥じない戦いを演じ、そして愛機を失った。代償は2年にわたる野戦病院暮らし。実戦復帰できたのは、ゴジュラスの後継機、ゴジュラスギガに乗りたい一心だったと言っていい。だが、ギガは彼を選ばなかった。
どれだけ腕とキャリアがあっても、ソリのあわないパイロットには従わない。それが、ゴジュラスというゾイドだ。結局デューは、アロザウラーに乗ることになる。任務はギガの護衛。乱戦の中では、巨大ゾイドが小型ゾイドに思わぬダメージを受けることがある。関節など、重装甲のすき間を狙われやすいのだ。膝あたりを集中的にやられたら、身動きできなくなることだってある。それを守る。皮肉な任務だった。ふられた女をエスコートしてパーティに出る、間抜けな男の役回りだ。
そして今、デューは戦場で舞う彼女の優雅なダンスを、惚れ惚れするような強さを間近で見せつけられていた。ゴジュラスの欠点が、見事に解消されている。古代チタニウム合金の装甲はあらゆる砲弾を弾き返し、ハイパー
Eシールドはジェノザウラーの荷電粒子砲に揺るぎもしない。追撃モードと格闘モードは、圧倒的なスピードとパワーの融合だ。巨大ゾイドの常識を引っくり返す戦い方。見ているだけで血が騒ぐ。
「あれに乗れたら…」
その思いが消えない。アロザウラーも悪くはないのだろう。ゴドスの後継機として配備されたゾイドだ。同じクラスなら、どんな帝国ゾイドにもヒケをとらないという。だが骨の髄までゴジュラス乗りのデューが求めるものは、絶対的なパワーだ。ない物ねだりと分かっていても、苛立ちが抑えられない。
ゴジュラスほど極端ではなくても、すべてのゾイドには意志と感情がある。操縦桿ごしに伝わるパイロットとの精神リンクがうまくいってこそ、その能力を100パーセント発揮できるのだ。今のデューがアロザウラーの能力を引き出せないのは、当たり前のことだった。
「せめて、まともに動きやがれ!」
デューが、パネルに向かって毒突いた時だった。突然、彼の背後の地表が割れた。4基の超硬度ドリルを備えた地底機。帝国軍の誇る超小型超高性能のSSゾイド、グランチャーの襲撃だった。機首の砲塔からパルスレーザーが放たれ、ギガの膝装甲のすき間に吸い込まれるように突き刺さる。舌打ちしてアロザウラーを反転させるデュー。だが、つかみかかる前にグランチャーは再び地中に消えた。デューのミスだ。護衛機でありながら先行しすぎた。敵を墜とせない焦りが生んだミス。そしてそれは、予想もしない致命的なミスとなった。ギガが、ゆっくりと崩れ落ちたのである。
膝から煙が上がっている。いくら直撃でも小型ゾイドの砲撃だ。一撃でここまでダメージを受けるなど、普通ならありえない。5か月で30機という無理な量産と、予定より早まった奇襲が、整備とテストを甘くしたに違いない。いずれにせよ撤退だ。いかにギガでも、立てなければただの標的だ。デューたち数機のアロザウラーに守られ、ギガの這うような後退が始まった。だが退路には、最悪の死神が待ち受けていたのだ。
「デ、デスザウラー…」
味方の誰かが呟いた。帝国軍の最強機獣、死を呼ぶ竜がそこにいた。
デスザウラーの無敵時代は、マッドサンダーの登場で終わりを告げている。とはいえマッド乗り以外にとって、悪夢のような怪物であることに変わりはない。ギガなら戦えるだろうか? 万全の状態で五分か? いや、それ以下かもしれない。奴には絶対の切り札があるからだ。
死竜の背中のファンが回った。
大気中の静電気が、恐ろしい勢いで吸い込まれていく。直後、光の奔流がギガとアロザウラー隊をのみ込んだ。大口径荷電粒子砲。ジェノや
BFの粒子砲とは桁違いのエネルギーの渦。光が消えた後、残ったものはEシールドを張ったギガと、その背後にいたデューのアロザウラーだけだ。他は、すべてが消滅した。現実ばなれした破壊力。恐怖で理性がとびそうになる。すぐに第2射がきた。耐えるギガ。だが3射目の直撃で、ギガのジェネレーターが悲鳴をあげた。限界だ。もう、シールドは張れない。
ギガが死ぬ。そう思った瞬間、デューはアロザウラーとともに跳躍していた。死竜を倒す。自分のミスを償うために。惚れたゾイドを守るために。
飛んだ先に、死竜の鼻っ面があった。超重装甲には歯が立たなくても、コクピットなら潰せるかもしれない。アロザウラーが、
電磁牙を剥いた。だが、特殊繊維の強化キャノピーだ。砕く前に、迎撃ビームきた。至近距離だ。全身の毛が逆立つ。
かわせた。さっきまでのちぐはぐさが嘘のようにアロザウラーが動く。たとえゴジュラスでも、パワーでデスザウラーには勝てない。アロザウラーのフットワークが、今は本気でありがたかった。そんなデューの思いに応えたのかもしれない。バランスを崩しながらも爪を立て、振り落とされないようデスザウラーの背を滑り下りていく。
目の前に、荷電粒子吸入ファン。死竜の内部回路に直結したほとんど唯一の弱点が、手の届く場所にあった。信じられないような幸運。勝機は、この一瞬しかない。2連ビームと火炎放射を同時に叩きこむ。ファンを守るように装備された死竜の4門の砲塔から反撃がくるが、トリガーは緩めない。一撃ごとに、アロザウラーの装甲板が弾け飛んでいく。右腕がちぎれ、キャノピーも砕けた。
「頑張れ、相棒!」
無意識にビューは叫んでいた。その瞬間、吸入ファンの内部が激しくショートするのが見えた。黒煙、そして炎が吹き上がる。デスザウラーの巨体がのたうった。だが、アロザウラーも耐え切れず振り落とされ、地表に叩きつけられた。衝撃で左足が折れる。ヘルメットと6点式のシートベルトで固めていたビューも、意識が飛びそうだ。その朦朧とした目に、苦痛と怒りに耐えて起き上がろうとするデスザウラーが映った。巨大な爪が、アロザウラーに向けて振り上げらていく。逃げられない。愛機は満身創痍で、デューには操縦桿を引く力さえない。だが絶望の中で、どこかデューの心は晴れやかだった。デスザウラーをここまで追い詰めたのだ。ゴジュラスにもできないことだ。ギガは守りきれなかったが、それでも生き残れるチャンスくらいは作れたはずだ。誇っていい。自分と、自分の愛機を。そう思って目を閉じた。
その瞬間、同時に3つのことが起きた。デスザウラーの腕が振り下ろされ、怒りで無防備に間合いに入ったデスザウラーの吸入ファンにギガの長大な尾が突き刺さり、アロザウラーのコクピット射出装置が自動的に作動した。デスザウラーとアロザウラーは死に、ギガとデューは生還し、そして翌日クック要塞は共和国軍の手に落ちた。
x x x
さらに5日後。傷の癒えたデュー・エルド大尉は、自ら志願してアロザウラー隊を率い、要塞北部の守りについた。新たな愛機の中で、デューはゾイドの不思議を思う。自らの意志で乗り手を選び、時に自らの命を捨てても乗り手を守る機械獣の不思議を。
右に激戦の跡地が見える。デューは静かに敬礼した。後悔と感謝の意をこめながら。
RZ-067 AROSAURER
アロザウラー
機体説明
アロザウラーはゴドスの後継機として開発され、旧中央大陸大戦後期に共和国軍主力部隊の
中核をになった主力ゾイドだ。だが激戦と惑星Zi大異変により、そのほとんどが消失。野生体の保護とクローニングの両面で、再量産化が進められてきた。
パワー、機動力、装甲、闘争本能のすべてで高いレベルを誇り、特に格闘戦ではクラス最高の能力をもつと言われる。
ネオゼネバス帝国軍の侵攻で大半の研究施設を失い、量産化は今なお遅れているが、ゴジュラスギガ、ゴルヘックスとともに、共和国軍反攻作戦の切り札となると期待されている。
Weight |
Depth |
Height |
Max Speed |
62.0t |
13.7m |
10.8m |
170km/h |
エレクトロンバイトファング
エレクトロンクロー×2
火炎放射器×2
スマッシュアップテイル
AZ105mm2連装ビーム砲×2
〈3面〉
【前面】 【側面】 【上面】
〈追加兵装プラン〉
排気ダクト
雪上歩行用安定板
共和国軍の反攻作戦に備え、冬の中央山脈を駆け下るために改装された寒冷地迷彩仕様のアロザウラー。関節カバー、排気ダクト、安定板等の装備により、決死的な行軍を成功させた。
●企画・編集・執筆
窪内 裕
●写真
森 文孝
●CG合成
渋谷 勇次(渋谷電子工房)
●イラスト
田川 秀樹
●デザイン
下村 勝 大里 睦 (T.D.N.)
●制作・監修
TOMY ZOIDS TEAM
©1983-2003 TOMY
ゾイド オフィシャルファンブック・エクストラ
ZOIDS OFFICIAL FAN BOOK EX Vol.5
〈ゾイドバトルストーリー〉
■ZAC2106年春、フロレシオ海・地図にない島
中央大陸 デルポイ マップ
ダラス海
シード海
デルダロス海
フロレシオ海
中央山脈
ネオゼネバス帝国首都
ヘリック共和国勢力エリア
旧ヘリック共和国首都
戦闘空域
帝国空軍中尉
サファイア・トリップ
帝国空軍大尉
アクア・エリウス
サファイア・トリップ中尉の眼下で、レイノスの編隊が1機、また1機と墜ちていく。襲いかかっているのは、帝国軍空戦用キメラ・フライシザース。レイノス1機に対して、5機から6機の群れで殺到していく。
高度800メートル。共和国空軍の誇る主力戦闘機レイノスといえど、この高さでは、性能のアドバンテージはほとんどない。本来、1万メートル以上の高々度で真価を発揮するゾイドなのだ。対空ミサイルもすでに射ち尽くした今、数の差がそのまま両編隊の戦力差だった。
1機のレイノスに向かって、左上方から2機のフライシザースがダイブした。別の2機が、頭上を押さえている。右に旋回するレイノス。そこに5機目のシザースがいた。真正面。マッハ3を超える相対速度で、巨大な牙と爪がくる。
レイノスのパイロットが、信じられない顔をした。このスピードで格闘戦を挑んでくるには侵入角度が深すぎる。特攻としか思えない。一瞬後、衝突。2機は炎上、四散した。
「ちっ」
通信機ごしの舌打ち聞いて、サファイアは高度1500メートルで旋回する僚機を見やった。シュトルヒ。サファイアの愛機と同じ、プラズマブレードアンテナを装備した改造機だ。
「どうかしましたか、大尉?」
またか、という思いを呑みこんで、サファイアは努めて冷静な声で、彼女の上官アクア・エリウス大尉に呼びかけた。
「どうしただ? おまえこそ、これを見て何も思わねえのか?」
低く、かみ殺したような声が、かえって深い怒りを感じさせる。
「味方は優勢です。喜ぶべきかと思いますが…」
「これはゾイド乗りの戦いじゃねえ!」
もともとアクアは、血の気の多い士官だ。だが彼のこの言葉は、ほとんどすべてのゾイド乗りの思いを代弁している。今、この星の戦いの形が、ゾイド乗りの望まぬ方向へと大きく変わろうとしていたからだ。
発端は、数年前に生まれた新たなテクノロジー。人工ゾイド
核が開発されたのだ。これは戦闘ゾイドの生産に、野生ゾイドを必要としなくなったことを意味する。低コストで、大量生産でき、個体差による性能のバラつきもなく、機体とパイロットの精神リンクも必要としない。誰にでも扱える人工ゾイドが造れるようになったことを意味するのだ。
このテクノロジーに、ネオゼネバス帝国司令部は飛びついた。いや。それだけに止まらず、自動操縦システムを組みこんだ無人ゾイド(コードネーム・キメラブロックス)までも生み出した。確かにキメラは、経済力も兵力もまだ弱い新国家ネオゼネバスにとって、理想的な兵器だ。だが、無人機ゆえの問題もあった。単独での戦闘には対処できても、部隊としての統一行動がとれなかったのである。
キメラを率いる指揮ゾイドが必要だった。コントロール波でキメラ部隊を統率する有人ゾイドが。そして、開発された指揮ゾイドのひとつが大型プラズマアンテナを装備した改造シュトルヒであり、そのテストパイロットとして選ばれたのがアクア・エリウスとサファイア・トリップである。シュトルヒで共和国勢力エリア上空を侵犯し、敵機を実験基地のある無人島空域までおびき寄せ、飛行キメラ・フライシザースを指揮して叩く。この実戦テストが、2人に与えられた任務であった。
また1機、レイノスが墜ちた。4機目。残りは2機だ。一方、フライシザースの損害は10機。実戦テストは、大成功といえた。たとえ2倍以上墜とされようが、生産コストは10分の1以下(パイロットの損耗を除いてだ)なのだ。やがてキメラの大軍団が、この星のあらゆる戦場を埋め尽くすだろう。戦士のいない冷たい戦場を進軍していく無人機の群れ。サファイアの脳裏には、その光景がありありと浮かんでいた。
アクアは、あれきり黙したままだ。
「ゾイド乗りのプライド…か」
地球移民の4世であり、惑星
Zi人とは違う価値観をもつサファイアには、理解はできても共感できない感情だった。地球人の漂着によって、技術レベルだけが突然変異のように飛躍した惑星Zi人だが、彼らのメンタリティは、まだ中世の香りを濃く残している。宗教にも似た獣神崇拝の文化と、野蛮さと、騎士の魂を持ったまま、1000年後の技術を手にしてしまった者たちなのだ。また、そういう魂がなければ優れたゾイド乗り、ゾイドとの深い精神リンクで結ばれたパイロットにはなれなかったのだ。少なくともこれまでは…。
ピーッという監視モニターからの突然の警告音が、サファイアのほんの束の間の思考をさえぎった。1機のレイノスが、フライシザースの囲みを突破したのだ。
「まずい」
今、フルスロットルをかけられたら、フライシザースやシュトルヒのスピードではレイノスには追いつけない。ジャミングエリアの外に出られて通信されたら、この空域でのテスト続行は不可能になる。だが、なぜ包囲網を抜けられた?
「あの野郎…」
通信機からアクアの声。さっきとは違う、驚きと喜びが交じった声だ。それを無視して、サファイアは辛うじてレイノスの進路に回りこめるフライシザース3機編隊をインターセプトコースにのせた。
「頭を押さえる。全開にはさせない!」
だが上昇するどころか、レイノスは逆に高度を下げた。高度500、400、300。さらに下降。マッハ0.8で。そこから急減速。水面ぎりぎりで左旋回した。信じられない操縦。引き起こしが間に合わず、2機のシザースが水面に激突し、残った1機も失速したところをビーム掃射で墜とされた。
コントロールテストを重視するあまり、シザースには格闘兵器しか装備していない。それが裏目に出た。あの戦法でこられたら誘導操縦しきれない。だが、あんな操縦が可能なのか? あのスピードで、強烈な
Gの中で、あれほど正確な操縦が?
「だめ。間に合わない」
もうレイノスに追いつく方法はない。呆然と呟いたサファイアは、一瞬後さらに目を見張った。レイノスが反転したのだ。その進行方向には、シザースの包囲の中に残されたもう1機のレイノスがいる。それを救う気だ。シザースはまだ、30機も残っているのに。
「サファイア、シザースを退げろ! 大事なオモチャが、残らずスクラップにされるぞ!」
「なにを…」
「分からねえか? あれは本物のゾイド乗りだ。本物が乗ったゾイドは、オモチャじゃ歯が立たないんだよ!」
突然、アクアのシュトルヒがダイブに入った。
「奴は、俺がやる」
「指揮装備のシュトルヒで? 無理です!」
「向こうさんだってボロボロじゃねえか。それにこの高度ならレイノスが相手だろうが…、やれるよ!」
高度1500からの、マッハ2を超えるダイブ。アクアもまた、あのレイノス乗り同様まともじゃない。たちまち、もつれあう2機。上になり、下になり、旋回する。まるで、音速で舞うダンスのようだ。激しく、優雅で、血なまぐさくて、美しい。
技術は進歩し続ける。より合理的に。キメラはより強く進化し、コントロールの不備も解消されていくだろう。やがて。
そう思いながらもサファイアは、2人のゾイド乗りの舞いに魅せられていく自分を止めることができなかった。
EZ-068 STORCH
シュトルヒ
機体説明
シュトルヒは、旧中央大陸戦争時代のゼネバス帝国が、制空権を確保するために開発した初の本格戦闘機である。その能力は、当時の共和国主力戦闘機プテラスをはるかに上回り、長く帝国空軍の優位性を保ち続けた。
時代とともにゾイドの大型化・重武装化が進み、現在では軽戦闘機と呼ばれるシュトルヒ。その主な任務は、偵察や護衛だ。実際、スペック上では、レイノス・ストームソーダーといった共和国空軍の現用戦闘機には見劣りする。
だが、運動能力の高さと抜群の命中精度を誇るバードミサイルにより低空戦闘力では今なお、目を見張る戦果をあげ続けているのだ。
Weight |
Depth |
Height |
Max Speed |
19.2t |
13.2m |
6.1m |
M2.1 |
3Dセンサー
AZ88mmビーム砲×2
マグネッサーウイング
マグネッサーテイルスタビライザー
エアブレーキ
SAMバードミサイル
〈3面〉
【上面】 【側面】 【前面】
〈追加兵装プラン〉
プラズマ ブレードアンテナ
シュトルヒには、旧式機ゆえの利点がある。改造や武装変更に対するキャパシティの広さだ。右は、現在帝国軍が開発中の無人機、人工ゾイド核搭載ゾイド「キメラブロックス」を指揮するための、大型プラズマアンテナ装着機である。
●企画・編集・執筆
窪内 裕
●写真
森 文孝
●CG合成
渋谷 勇次(渋谷電子工房)
●イラスト
田川 秀樹
●デザイン
下村 勝 大里 睦 (T.D.N.)
●制作・監修
TOMY ZOIDS TEAM
©1983-2003 TOMY
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